ジャンルとしての「チルアウト」「アンビエント・ハウス」はここから始まった。The Orbに参加していたジミー・コーティとビル・ドラモンドによるUKのユニット、KLF。この名盤が発表されたのは1990年。この時代のハウスは、身体性としてのダンス・ミュージックが第一義としてあって、1970年後半以降のイーノ的アンビエントとは相反する文脈だった。しかし、KLFの解釈では「熱狂的なパーティーを終え、朝を迎えるための音楽」という意味合いで、チルアウトな”ダンス・ミュージック”を発明したのだ。Autechre やAphex TwinなどのIDM(Intelligent dance music)と共に、ダンス・カルチャーを捉え直した歴史的分岐点だ。
今作は、鳥や羊の声、ホーミー、自動車の走行音、エルヴィス・プレスリーのサンプルなどなど、数多の素材がある種の環境音として利用されている。それらがコラージュという整理でいいのか単純ではないが、悠久にかつ多彩に、聴くものを通過していく。それらは私たちを、安寧に満ちた空洞に取り残していく。ピンクフロイドを元ネタとした(とされる)アートワークの羊もなんとも象徴的だ。
無断サンプリングが無邪気に? 戦略的に?利用されているため、サブスクには今後出ることはないだろう。ちなみにユニット名が「Kopyright Liberation Front」(著作権解放戦線)の略であるという説があり、サンプリングに込めたアティテュードも気になるところ。しかし、様々な問題行為と共に表舞台を去った彼らにしか、その真意はわからない。
(店主)
#Ambient #Chillout