前作「async(’17)」から、6年ぶりのオリジナルアルバム。闘病生活の中、日記のように音のスケッチを残していた。それはログとして、またカタルシスとして作用したのだろう。その中から12曲を選んだ作品集。ほぼ全ての曲は一筆書きのようにありのままを残している。それは即興作品とも異なる、まさに日々を綴るスケッチであった。そして、3曲「20220302 – sarabande」「20220302」「20220404」のみ推敲を施し、ある種の作品性を孕んでいる。
曲のタイトルは制作日を示しており、この作品にとって必要な美しい無名性を担保している。「20220302 – sarabande」のみ意味を持つ単語が記されているのは優雅な作品性をより想像させるためだったと生前の作者は語る。
盟友ZAKによるミックスが施されており、作者の息遣いも含め、ありのままのサウンドが美しく残された。
本作品は輸入盤。初回限定盤に付属されたスコアはなし。
「千のナイフ(’78)」でソロ・キャリアをスタート。「エスペラント(’85)」では民族音楽的アプローチを実現し、「BTTB(’98)」ではクラシックのニュアンスに回帰。映画音楽には生涯をかけて情熱を注いだ。「out of noise(’09)」以降、現代音楽のアプローチに傾倒し、本作で極地に達する。
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腕の中の我が子と陽の光で目覚めると、頭の中を彼のスケッチが流れていた。そこに死を思わせる悲壮感はなく、絹のベールのような親密な音楽が私たちを優しく包んでいた。彼の作る音楽はいつだって、かけがえのない私たちの美しい日常のために優しく寄り添っていた。彼が残したものを時折思い出し、未来について想いを馳せたい。(店主)
#Ambient #Contemporary